西嶋豊彦が日本画の世界で注目を集めた初期作品(1992~1996年発表)はすべて自画像です。
人は誰でも思春期や社会に出たときに、多かれ少なかれ悩み、自己を見つめる時期がありますが、西嶋には「自分はなぜ生まれてきたのか?」にはじまる自問自答を繰り返す期間が長くありました。
そのなかで描いた作品が自画像です。6年に渡り描き続けた自画像作品の一部は、当HPの作品ページや、あゆみページでも紹介していますので、ぜひご覧いただければと思いますが、描かれる絵はすべて、「死」の空気が漂っています。
いま、西嶋は20年以上経った当時を振り返り、「自分自身に対しても、他者に対しても、破滅的思考が非常に強かった」と感慨深く話しますが、当時は極限にまで痩せ、いつ人生を終えてもいいというような心理状況のなかで、ただただ、日本画のなかに自己表現を追求したのが自画像作品でした。
その後、ある冬の朝の出来事をきっかけに、西嶋は「生」へと目を向けるようになり、描く世界も変わっていくのですが、初期作品で追求した微に入り細に穿つ筆致は現在にいたるまで変わりません。
西嶋はよく、ひとつの対象物を描くとき、何十枚、何百枚とスケッチをしているうちに、その対象と対話できるようになり、やがて一体感が生まれたときに作品が誕生すると言いますが、これは、初期の自画像作品を描くなかで確立したスタイルです。このHPを制作するにあたり、自画像作品と久々に対面し、「自画像を描いていたときは、本当に何度も何度も自問自答繰り返したので、物事を表面的に見るのではなく、対話ができるようになった。大切だと思うようになったのだと思う」との一言は、とても印象的でした。
西嶋豊彦事務所
竹田陽平